山のふもとにある町があった。生命あるものはみな自然とひとつだった。その町のまわりには、豊かな田畑が碁盤の目のように広がり、穀物畑の続く先には、丘がもりあがっている。その丘の斜面には果樹が茂っていた。
春がくると、みどりの野原のかなたに白い花のかすみがたなびき、秋になればかしやかえでや樺が燃えるような紅葉のあやを織りなし、松の緑が映えて見える。丘の森からには、動物たちの声が聞こえ、野原にはウサギやシカが靄の中に見え隠れしつつ音もなく駆けている。
道にを歩けば野花が咲き乱れ、野鳥の声が季節ごとに効かれ、四季折々に行く人々を楽しませてくれていた。
ところが、ある時からどういうわけか黒い影が忍びより始めた。鳥たちがわけのわからない病気にかかりばたばたと死んでいった。人々もこれまでにみたことのない病気にかかり始めた。かつて人々の目を楽しませた道端の草木は茶色く枯れ始め、動物たちや鳥の声も聞こえない・・・・・・・。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の一説である。
20年ほど前に食糧生産団地といわれていいた中国の農村地帯に視察に行った時のことを思い出した。雄大な田園地帯であるが生き物の姿を感じないことにふと気が付いた。スズメやカラスがいない,用水路にはカエルや魚たちの姿が見えない。説明を聞いていると、生産性を上げるため農薬の散布量を増やしているとのことであった。この寓話が現実化しているのでは?と愕然としたことを思い出した。
あれから20数年が経ちカーボンニュートラルな時代を迎えている。私たち中小企業も自然との調和、循環型社会への取り組みは他人ごとではない。寓話のような時代を迎えないためにも、責任をもって取り組んでいかなければならない。こういった視点にもビジネスチャンスがあるはずだ。